鎌倉・もやい工藝  手仕事レポート


TOP
 
もやい工藝について
 
新着品紹介
 
板の間ギャラリー
 
推薦工芸品
 
仕入れ日記
 
日々の暮らし
 
手仕事レポート
 
地図・お問い合わせ
 
更新履歴
 
ブログ
 
facebook
 
手しごと
 
ネットショップ「SILTA」開店いたしました
 
LINK集

その3 奥原硝子工房

5月下旬、北窯の窯出しに同行させていただいた際、日程の前後を使って沖縄の手仕事の現場を訪問し、仕事の様子を見せていただきました。

今回はそのうちの一つ、奥原硝子工房についてのレポートです。

てんぶす会館二階の売店

 

松山 工藝ギャラリーROSA




@【奥原硝子の歴史】

沖縄の再生ガラスはもともとは戦後に駐留していたアメリカ人の人々の需要に応えて始まった仕事で、それを最初に試みたのがこの奥原硝子製造所です。先代社長の桃原正男(とうばる まさお)さんの時代に、現在の定番であるペリカンピッチャーをはじめ、国内外さまざまな古作に倣った製品が多く出来上がり、定着していきました。

また、沖縄再生ガラスの先駆でありながら、創業から60年近く経った今でも当時と変わらない仕事を代々続けている工房でもあり、現在は桃原正男さんの親類の方々をはじめ、5人の職人さんが工房で仕事を受け継ぎ、協同でのガラス作りを続けてらっしゃいます。

工房の場所は那覇の国際通りの中ほどに面した、てんぶす会館2階。常時体験なども受けいれてらっしゃる開放的な工房です。

 

A【作業工程】

奥原硝子工房では、ガラスづくりの全行程を一人ひとりが行うのでなく、各々が担当の作業を受け持って流れ作業で仕事を進めていく、共同体ならではの形をとっています。

この日作っていたのは、背の高いフリーカップ。くびれやモールは入っておらず、すっと一直線になっているシンプルなものです。

1. 原形をつくる、量を調節する

 

左奥:坩堝(溶解したガラスが入っている窯)
その手前:坩堝の中のガラスを絡め取り吹いているところ

工房奥にある、坩堝の中にはこのような壺がいくつか入っており、中には溶けたガラスが色ごとに分けられて入っています。

まずはこの壺から吹き竿で巻き取ったガラスを、そのまま吹いておおよその大きさに膨らまします。ガラスの分量の調整もこの時行います。量を減らすときは先が細くなるように吹き、鋏で切り離します。

ガラスの成形に使う容器 (名前は聞きそびれました)

 

ある程度の大きさに膨らんだら、均一な楕円の球体になるように(だと思います)、この容器の上で回しながら吹きます。

容器のそばに水の入ったシャンプーの容器が置いてあって、作業の直前にそれを片手でプッシュして容器の表面に垂らしていました。そのままだとガラスが鉄の表面にくっついてしまうらしく、それを防ぐために容器の表面を水で濡らすのだそうです。

 

2. 筒状にする。背の高さと口径を合わせる。

※写真を撮り忘れました。

日用品であるため、大きさ・形、それぞれに規格があります。

その規格ごとに金属製の型枠があり、この型枠を地面に置き、1で均一な丸型にしたガラスを収め、真上から息を吹き込みながらおおよその形作りをしていきます。

私が見学させていただいた時は背の高いコップを作っていたので、細めの筒型の吹き型を使っていました。ここの工程は、ガラスを吹く人と下でガラスを支え整える人、2人係りでの作業です。

工程1で均一な丸になるよう膨らますときもそうだと思いますが、均一にしなければならないのは見た目の外形だけではなく、ガラスの内側の空洞の形、もっと言えばガラス全体の厚みだと思います。この段階で筒状になるとイメージしやすくなりますが、コップになったとき、側面の厚みは均一になっていなければなりません。そのためには一定のリズムで吹き竿を回しながら、それに合わせて一定の量・強さで息をふきこまなくてはならず、体に刻み込まれた感覚がものをいう部分であると感じました。

コップや湯飲みにおいて、胴の厚みや口の形・厚みは、普段使いのものとして重要な使いやすさに大きく影響する部分です。民藝の言葉だと、直接的に用に通ずる大事な部分、とも言えるかと思います。

 

3. 口を作る、形を仕上げる

工程2までで、おおまかにはほぼ規格通りの形・大きさになっています。

この段階では、吹き口の反対側がコップの底となる部分になっているので、コップの飲み口をつくるため、一旦底のほうに吹き竿を付け替えます。

この時も、相手方の吹き竿の先についているのは熱したガラスの塊。

 

 

熱したガラス同士は柔軟で、くっつける時はしっかりくっつくし、外す時もきれいに外れます。何より、ガラスが破損する一番の要因は周囲の温度差。ガラス以外のものを使うとどうしてもそこに温度差が生じがちになり、本体の破損をつながるおそれがありますが、同じガラス同士ならその点も心配いりません。

吹き竿を底の方に付け替えたら、再度窯に入れてガラスを熱し、口を広げます。

 

 

ガラスの温度はガラスの色で判断します。

オレンジ色に変色しているときで1300℃、オレンジ色が引き始めるのが1000℃、というおおまかな目安はあるそうですが、逐一そういった数字を考えて吹いているわけではなく、やはり目で覚えているそうです。目、手触り、その他もろもろ、自分の体で覚えている、感覚としてきちんと落とし込んで身についている、というのは、まさに、手仕事の強みであり、いいものができてくる大事な条件だと思いました。

 

4. 吹き跡をバーナーで消し、冷却庫にいれる

左:福岡 太田潤さん 右:沖縄 奥原硝子工房

 

手吹きガラスの底を見ると、だいたいのものに写真のような跡があると思います。

これは手吹きガラス特有の跡で、ガラスを吹き竿から外したときに残る跡です。

奥原硝子のものは底にこの跡があまり残っておらず、なめらかできれいなのですが、それは吹き竿からガラスを外した直後に跡をバーナーで熱して溶かし、馴染ませているからでした。複数人による協同作業だからこそできる工程です。


バーナーでコップの底の跡を滑らかにしているところ

 

すぐ横の白くて四角いのが冷却庫

バーナーを当てる作業が終わると、そのすぐ隣にあるガラス用の冷却庫へ完成したガラスを入れます。冷却庫といっても中は530℃。前述したようにガラスは非常に温度差に弱く、1000℃近くになったガラスをそのまま常温に置いておくと破損してしまうことがあるため、ワンクッションはさむために一旦この冷却庫に保管し、温度差を和らげてやるのだそうです。

 

おまけ

2色でできたガラスの作り方

基本の部分は同じで、工程3の部分で、別個に工程1まで吹いたガラスを巻き付けます。
この時本体の方は赤みが引く程度に冷めている状態です。

別の色のガラスを本体に巻きつける

 

巻きつけたあとは、他のものと同じく窯で熱しながら形を整えていきます。
同じガラスなので、窯に入れても溶け出して形が崩れるようなことはありません。

 

おまけ2 ガラスづくりの道具いろいろ

工程3で使われていた道具

 

・底を平らにする板(木製)
木製の方が熱を通しにくくガラスが破損しにくい。鉄よりもやわらかい。

・棒からガラスを切り離す板(木製)
棒からガラスを切り離す時にノコギリのようにして使います。木は鉄製のものよりもやわらかくて温度変化が激しくなくて良いそうです。

・長さを確認する針金
規格ごとにある。ある程度吹いてから、ガラスの長さと合わせてみてサイズを確認するためのもの。だいたい確認のためだけのもので、測った後に何度も吹き直して調整し直したりすることはない。

・鋏
ガラスを切る鋏。熱して液状にしたガラスを切る、棒から離す時に少しずつ削るのに使う。

 

 

B【完成品いろいろ】

ペリカンピッチャー

その名の通り、ペリカンのようにぐっと出っ張った注ぎ口のピッチャー。イタリアの伝統的な果汁水差を手本にしたものですが、おおらかで伸びやかなシルエットのものが魅力の奥原硝子の仕事と相性がよく、今では奥原硝子の定番です。
(イタリアの果汁水差は外村吉之介先生の著書『少年民藝館』に白黒写真が載っています)
はじめて見たときは見慣れない大胆な形に驚きましたが、よくよく見慣れてくると大胆な変形ながら嫌みがなく伸びやかで、穿った主張もない良い形だと感じるようになりました。
ダイレクトなおおらかさが、暮らしに元気を与えてくれます。
また、注ぐ際に固形物が口のところで引っかかるので、氷無しでコップに注げたり、サングリアの液体だけを注げたりと、便利です。夏は氷を入れたお茶を入れて、食卓に出しても良いかもしれません。夏の暑い時期、量も丁度よく重宝します。
もの自体の形がおもしろいものでもあるので、使わない時は何もせず飾っておくだけでも楽しめます。

 

素朴で飾らない作り。微塵も神経質さが感じられないところが魅力的だと思います。
見た目も涼しげで容積もあるので、暑くて喉が渇く夏にはぴったりです。夏の日差しがよく似合います。

 

すっきりとしたラインの胴に、ぐっと下に向かって太くなる力強い持ち手が素敵なソース瓶。涼しげなラムネ色は、みずみずしい野菜に添えるドレッシングなどを入れても良いかもと思います。年中使えるものなので、季節で色を変えて楽しむのも良いなと思います。

 

C複数人での協同生産

複数人が在籍する工房というのはガラスでも焼物でも一般的な在り方ですが、その中にはそれぞれが一人でひとつのものを作る全行程を行う工房(スタジオガラス)と、複数人が分業でひとつのものを作る工房があります。奥原硝子工房は後者で、一時に流れ作業のように複数人で仕事をこなす形をとっています。

工房全体を見渡すと、けしてせわしない感じはないけれども全員が絶え間なく動いている。一方でひとつの持ち場に焦点を絞って見ると、自分の持ち場の作業が終わりガラスを次の人に渡す、ほどよい一定の間を空けてまた次のガラスが来る、その繰り返しがリズム良く続いていることに気が付きました。体験の方が来て一時リズムが崩れても慣れたもののようで、みなさん動じることなく、まただんたんと元の作業リズムに戻っていきます。全体としての大きな流れがあって、個々人がそれに身を任せているような印象を受けました。

このように、奥原硝子はひとつのものを各工程ごとに別々の人が行う流れ作業でのガラス作りですが、その作業は全体を通して一定のリズムで進んでおり、一本の筋が通っています。また、複数人で行うからには、全体として機能していくために一人ひとりが全体のリズムに合わせなくてはなりません。

これは民藝の視点での見方かもしれませんが、それらのことがかえって良い抑止力になり、個人個人の動きに洗練をもたらしているのではないだろうかと思いました。

また、作業工程の中には二人がかりでやるものもありますが、常に二人そろって待ち構えているわけではなく、別の作業をしていた人がガラスが来たと同時にすっと持ち場につくような感じで、

人手が必要な部分に素早く入る、自分の持ち場に執心せず、柔軟に全体の流れの中で必要な場所を埋めに入る。各々「与えられた持ち場のことをやっていればいい」というのではなく、常に全体が見えている、一連の仕事を常に意識しながら自分の仕事に専念する、といった様子で、どの工程を見ても、やることがなく手持ち無沙汰にしていたり、逆にやることが多すぎて手が回らず困っていたりする光景は見受けられず、毎日の繰り返しで培われたチームワークの熟練度を感じました。

分業というと、「自分が全体でいうどの部分をになっているのかよくわからないけれど、自分の担当箇所だけマニュアル通りにこなしていればよい」、というイメージを抱きがちかもしれませんが、協同作業における手仕事はそうではありません。

現代の大量生産にありがちな、部分部分で実際に手を動かしている人々が全体を見えていない分業制とは違い、全体に溶け込みながら全体を理解して手を動かすのが協同という仕事なのだと思います。

全体として洗練されていながら個々人が神経質でなく、できあがってくるものも非常におおらかな奥原硝子。これがひとつ、理想的な共同体のあり方のように感じました。

 

2015年7月 藤原 詩織

  手仕事レポート TOP