小鹿田焼というより、「現代日本の民窯」最後の名陶工坂本茂木さんが本当に引退されてしまいました。3月下旬に当ギャラリーで「小鹿田焼老陶工の会」を催したおり、案内状の中に『孫の創君が4月から仕事場に入ることになり爺はひくことになる』と書きましたが、それでもしばらくは、僅かな機会をみつけてのロクロ作業に、私は淡い期待をもってはいました。5月16日、皿山を訪れた私や同行した仲間達とそれに倉敷ガラスの小谷真三さん、小鹿田焼の同僚柳瀬朝夫、坂本浩二両氏を前にして、茂木さんは『今朝火入れした窯に最後の自作品を入れており、本日この日をもって窯仕事から去る』と明快に表明されたのでした。小鹿田焼窯元の、伝統を守るという、一子相伝の「不文律」からやむを得ない事情とは理解しますが、これまで、健全な小鹿田焼のみならず、柳宗悦を始め同士たちが願った「民藝」の現代的意義の存在を支えてきた優れた名工の仕事が、もう見られなくなることは寂しく、残念でもあります。それで私は、この窯出しの品々が、良し悪しを別として、ほぼ全てを仕入れさせてもらいました。私の「民藝」との関わりが坂本茂木(シゲちゃん)とのつながりでもありつきあいでもあったことを自身に記念し、全製品を持っていたいところ、思い切って展示会として皆様に茂木さんとの念いを共有したく、頒けてみることを企画したのであります。すでに隠居の茂木さんゆえ、量は少ないしまた不良品もありますが、どうか皆様方、この記念すべき会にご来場ください。(もやい工藝 久野恵一)
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