鎌倉・もやい工藝  手仕事レポート


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その1 内子の鉄製燭台

今回は松山で民藝のお店『ROSA』を営んでらっしゃる門田さんの案内で、内子駅を降りてすぐのところにある鍛冶屋、自在鋼房(じざいこうぼう)さんに伺いました。鉄の仕事を見るのは、今回が初めてです。




@【燭台作りのきっかけ】

職人の児玉政輝さんは、今は鉄製燭台をメインにされていますが、もとは野鍛冶といって、稲刈りの道具を主に作っていたそうです。

燭台作りを始めたきっかけは、近年の農業の機械化に伴い、手作業の農具はあまり売れなくなっていったこと。
そこから、作る側として品物の幅を広げようと、内子の和蝋燭に縁のある燭台を作るようになったのだそうです。

自在鋼房の燭台と内子の和蝋燭(絹仕上げ燭台・5匁蝋燭)

和蝋燭の質感と鉄の質感とが、不思議とあたたかみがあってとてもよく合います。

 

 

A【燭台作りの仕事】

燭台は一つにつき一本の鉄を叩いて伸ばし、形にしていきます。

鉄を熱する炉
鉄が赤くなるのは600℃

 

鉄を叩いて伸ばす機械
熱した鉄を叩いて伸ばしているところです。機械自体は、鉄を叩くハンマーが一定のリズムで上下に動くのみ。

 

 

拝見したところ、同じ動きをする機械の中で、一本の鉄を引く動作と回す動作、この二つの動作によって曲げて形にしたとき良い形になるよう、調整しているようでした。
無駄のない動きと丁寧な仕事を目の当たりにして、多産による経験が生きているように感じました。

そして、熱した一本の鉄で、燭台の形に造形していきます。
写真は、蝋燭を刺す部分が造形された状態のもの(テーブル奥)

 

完成品(工房2階のお店スペース)

児玉さん曰く、多くの曲線をもったもの、凝った装飾を含んだものなどを経て、今のシンプルな形に落ちついたといいます。

「なんでこんな簡単なんが最初からできんかったかなあ…」と笑いながらおっしゃっているのを聞いて、ひとつ、ものの形の『洗練』の経緯を垣間見られた気がしました。

今でも作っておられますが、こういった装飾的なものを経て最後に辿り着いたのが、上の写真にあるようなシンプルな形だそうです。

 

 

B【燭台、完成品いろいろ】

燭台(絹仕上げ、5匁蝋燭用)

熱すぎず冷めすぎずのタイミングで、絹の布で鉄を磨いてツヤを出しています。手間のかかる作業ですが、鉄そのものの質感が残った仕上がりになります。素材の鉄の表情が滲み出て、無骨ながら品のある、美しいものです。

燭台(防錆び加工、5匁蝋燭用)

こちらは少しマットな感じに。鉄の表面を加工してあります。手間もあまりかからず、量産しやすいのだそうです。また、錆びにくいという利点もあります。鉄でありながらライトな感じ、手仕事以外のインテリアにも溶け込みやすい気がします。

 

 

C【稲作と手仕事について】

この度の燭台は、農機具の需要が減ったことがきっかけで始まった手仕事でした。
近代化・機械化に伴うライフスタイルの変化で、かつては必需品だったものが使われなくなる、使われなくなれば作らなくなる、という流れで失われた手仕事は少なくありません。

現在のライフスタイルに合わせて新しいものが生まれるのは、作る側としても使う側としても嬉しいことですが、
かつて日本に西洋食器(コーヒーカップやピッチャーなど)が入ってきてから、日本の窯元で今のような形の良い西洋食器が平常に作られるようになるまでにかかった時間や労力を思うと、
新しいものにそれまで長い間培ってきた伝統や力強さを引き継ぐことはそれほど容易なことではないように思います。

特に、昨年仙台で催された手仕事フォーラムの全国の集いで議題となっていましたが、稲作は長きに渡る日本文化・日本の伝統の幹の部分です。
当然手仕事も、稲作を中心に発展していきました。

その稲作が機械化したり、そもそもお米を輸入に頼って稲作自体をやめてしまったり、そういった事態に陥りつつある今、知らぬ間に日本の手仕事から多くの伝統が消えていくことが危惧されるように思います。

この度の児玉さんにも農機具を打っていた経験があり、その上での、この燭台の仕事です。
「骨格のある仕事」という言い方を久野さんがよくされますが、この素朴で美しい燭台作りを支えているのは、農機具の仕事なのかな、と思ったりもしました。

やはり日本の手仕事における力強さの源には、稲作がひとつ、大きな土台としてあるのでしょうか。
この疑問は、これからいろいろと見ていく中で、少しずつ考えを深めていけたらと思っています。




【自在鋼房(じざいこうぼう)】

・住所
〒791-3301
愛媛県喜多郡内子町内子3572

・電話番号
089-344-3310

・営業時間
10:00〜18:00(不定休)

・料金
鉄製燭台: 1,900円〜
燭台作り体験: 3,000円〜(要予約)

2015年4月 藤原 詩織

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