鎌倉・もやい工藝 推薦工芸品


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 米上げ笊のもつ美しく豊かな形を生かした麺上げ笊(ざる)

 日本各地の農家で、つい先頃まで使われた農具の一つに「米上げ笊」があります。
 使い方は何処でも共通しています。研いだお米を揚げておく為のものだったり、穀物の測りや運搬にも用いました。昔は、大量の米を必要とする餅つきには欠かせないもので、農家の納屋などにはいくつもの笊が掛かっていたものです。
 笊は竹細工でつくられるものが多く、地方地域で竹の種類や性質によって編み組が相違し、地方色豊かな形が見られました。手仕事による農具が亡くなりつつあるこの頃ですが、それでも使い慣れた米上げ笊を求める年配の人もいるせいか、地方によっては細々ながら今もつくり続けられています。
 鹿児島県は20年ほど前までは竹細工の盛んな地で、県内各地域では専業の職人が実用的な篭や笊を注文に応じてつくっていました。しかし、この地でさえも職人の老齢化が進み、割の合わない仕事として後継者も育たず、いまや数える程の老人たちによって竹製品づくりが行われています。


   尾崎利一さん(鹿児島県・姶良地方) 麺上げ笊(ざる)

  尾崎さんは昭和7年生まれの72才。竹細工職人では若い方ですが、しかし腕前は県内隋一と言っていいでしょう。材料を竹材業者より購入する職人が多い中、良質な用材を求めて竹を自前で採りに行きます。もともと島根県の山間部出身で、少年時代にそこで竹細工を覚えたそうです。今は奥さんの実家がある鹿児島県中央に位置する姶良(あいら)地方へ移転して30年程になり、仕上げの美しい篭づくりの名人としても知られるようになりました。
 その尾崎さんに米上げ笊を注文したのは、もう20年も前のことになります。
 鹿児島県地方では、米上げ笊を「米上げジョケ」と呼称します。その特徴は、肉厚で巾広の竹ヒゴ4枚を征で割り揃えて縁に当て、それをヅヅラと呼ばれるフジ蔓で等間隔に巻き止めた縁づくりにあります。また、竹ヒゴも巾広なので浅い円形の平篭のようになります。米上げ笊は全国的には共通して深い形をしていますので、これは特有な形ともいえるでしょう。しかし、尾崎さんがつくった米上げジョケは深い丸みのある形をしていて、この地方では見かけないものでした。
 
 ところで、岡山、鳥取、島根の中国山地では、米上げ笊は「ソウケ」という名称で呼ばれています。ソウケの縁づくりは鹿児島地方と同様、征割りの当て縁です。巻きとめる蔓はツヅラでなく針金を多く用いています。やや長円型で深めの笊は、伏せると盛り上がった亀の姿に似ていることから「ダンガメソウケ」という名で呼ばれます。
 つまり、尾崎さんの手から生まれる笊は、ダンガメソウケよりやや浅い形をしていますが、明らかに竹細工を最初に学んだ島根県地方の特徴を受け継いだ形になっているのです。


鹿児島地方の米上げジョケと同じく平たいバラ
(農作物を干すためのもの)

 
ダンガメソウケ        亀の形に似ています。

 昔ながらの手仕事は、米上げジョケであれ、ダンガメソウケであれ、その使い勝手から必然的に創りあげられた美しい姿をしています。こうしたものは、できればその用途のままに使っていくことが第一義なのでしょう。例えば、現代の生活にこうした篭や笊をそのままの姿で取り入れるとすると、脱衣カゴ、スリッパ入れ、雑誌・新聞入、などになるのでしょうか。しかし、狭い居住空間が都会ばかりか地方でも当たり前の昨今、大きめな篭類は次第に敬遠されがちとなってきています。そのせいか、近年、原型を安易に小さくミニチュア化したものがつくられるようになりました。そのために、本来の良い仕事が衰退してきた現実があります。
 そこで、本来の篭の健やかな美しさを損なわず、かつ現代生活にも使い勝手のよいものを目指し、この「麺上げ笊」を考案しました。これはあくまでも日常使うことを目的として、そして自然な素材を日常の暮しにとり入れることを考えた結果です。
 米上げ笊のもつ美しく豊かな形をそのまま小振りな笊にするために、まず編み組に用いる竹ヒゴ(地方名でヘギ)をより細く円めに削り、粘性を引き出します。次に、小ぶりな笊でありながらも縁づくりは巾広で厚めにして、竹ヒゴの強い弾性を押さえこみます。そして縁巻きも太めのツヅラ蔓でしっかりと留めて、小さくともびくともしない笊が出来上がったのです。
 さらに、安定のために細竹を輪切りにして2本底に取り付けて足にしましたので、使い心地のよい暮らしの器となりました。水切りにもなり、ソーメンでもうどんでも、直接盛って豪快に食べるのに相応しい笊です。自然をより身近に楽しむことができる器です。


 鹿児島地方の米上げジョケ(左)と尾崎さんの米上げジョケ(右)

 
竹の足がついていますので、水切りに適しています。  茶碗カゴとして使ってみました。

  (久野恵一)

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